大阪地方裁判所 平成2年(わ)149号 判決 1990年6月27日
主文
被告人を懲役一年一〇月に処する。
この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
押収してあるビニール袋入り大麻二袋(平成二年押第八六号の一及び二)、同フィルムケース入り大麻一個(同押号の三)及び同紙袋入り大麻一袋(同押号の四)を没収する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、法定の除外事由がないのに
第一 Aと共謀の上
一 平成元年五月初旬ころ、大阪府大東市<住所略>B所有の山林内において、大麻草の種子を蒔くとともに大麻草の苗を植え、同年一〇月二二日までの間、同所において、大麻草二一〇本を成育させて栽培し
二 同年一〇月二六日午前二時三〇分ころ、大阪市城東区中央三丁目五番六号先路上の普通乗用車内において、大麻草約二四六七グラムを所持し
第二 同年一一月一日、同区<住所略>メゾン○○第三××ビル三〇三号室の自宅において、大麻草約3132.63グラム(平成二年押第八六号の一ないし四はその一部)を所持し
たものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
被告人の判示第一の一の所為は刑法六〇条、大麻取締法二四条一号、三条一項に、判示第一の二の所為は刑法六〇条、大麻取締法二四条の二第一号、三条一項に、判示第二の所為は同法二四条の二第一号、三条一項にそれぞれ該当するところ、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、押収してあるビニール袋入り大麻二袋(平成二年押第八六号の一及び二)、同フィルムケース入り大麻一個(同押号の三)及び同紙袋入り大麻一袋(同押号の四)は判示第二の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しないから同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。
(判示第一の二の事実についての弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、判示第一の二の事実の客体たる乾燥植物草片は大麻取締法一条但書の「大麻草の成熟した茎」に該当し、同法の規制対象から除外されるから本件は無罪である旨主張する。
前掲関係証拠によれば、被告人は、友人のAと相談のうえ、自らが吸煙するための大麻を栽培しようと考え、平成元年五月初旬ころ、判示のとおり、大阪府大東市内の山林に大麻種子をまいたり、自宅で育てた大麻の苗を植えるなどして、同年一〇月まで、同所で大麻草二一〇本を栽培したこと、被告人は、同年一〇月二二日に、Aと共に刈り入れのため同所に赴いたところ、大麻草は、大きいもので、高さ約二メートル、太さ直径五、六センチメートル、小さいもので、高さ約一メートル、太さ直径二、三センチメートル位になっていたこと、被告人とAは、同所で、葉の多くついている大麻草の小枝部分を切り取って、ビニール袋一〇袋分を収穫し、これを被告人の自宅に持ち帰り、小枝から吸煙の効き目の強い葉の部分等を摘み取り、これを二人で分配し、残りの若干葉のついた状態の長さ数十センチメートル以下、太さ直径数ミリメートル以下の小枝は捨てるつもりで、ビニール袋に入れたうえ、被告人が友人から借用していた自動車のトランクに入れたこと、その後の同月二六日、Aが右自動車を運転中交通事故を起こしたことから、同車トランクに積んでいた右大麻の小枝等(以下「本件植物片」ともいう)が捜査機関に発見されたこと、本件植物片を鑑定したところ、大麻が検出されたことが認められる。
以上によれば、本件植物片が大麻取締法一条本文にいう「大麻草」の一部であることは明らかである。
そこで、本件植物片が同条但書にいう「大麻草の成熟した茎」に該たるか否かについて検討する。
まず、同条但書にいう「大麻草の成熟した茎」とはいかなる意味であるかが問題となるが、同法一条但書が、「大麻草の成熟した茎」を規制対象から除外したのは、本法の各条文の構造、本条但書の表現、立法趣旨等に照らすと、繊維製品としての麻の製造、流通、使用を規制外に置くためであると解され、そのような趣旨からすると、ここにいう「大麻草の成熟した茎」とは、右製品を得るのに適した状態に達した茎の部分が大麻草から分離されてそれに適する形状になったものを言うと解すべきである。
そこで、本件植物片が、麻製品を得るのに適した状態に達した茎の部分が大麻草から分離されてそれ(麻製品)に適する形状になったものといえるか否かについて検討するに、前掲関係証拠によれば、大麻草は、くわ科の一年生草本で、高さは二、三メートルにまで達するものであり、大麻草から繊維を採るのは、通常まっすぐな太い茎の部分からであり、その一般的な方法は、二メートルを超える大きさに育った大麻草を引き抜き、根と葉を落し、茎だけにしたうえ、これをゆでたり、乾燥し、更に発酵させて繊維を取り出すというものであることが認められるところ、前記認定の本件収穫時点での本件栽培にかかる大麻草は成熟状態にあったものとはみられるが、これから分離された本件植物片は、主として、長さは数十センチメートル以下、太さは直径数ミリメートルの形状の大麻草の小枝部分であって、いずれも先端部分の葉は取り去られてはいるものの、枝には若干量の葉が残っているという状態のものであり、通常麻繊維を採るまっすぐな太い茎の部分でないものであり、本件植物片は、麻製品を得るのに適した状態に達した茎の部分が大麻草から分離されて麻製品に適する形状になったものとは認められず、本件植物片は大麻取締法一条但書の「大麻草の成熟した茎」には該当しないと解されるから、弁護人の前記主張は採用できない。
(量刑の理由)
本件は、被告人が、友人と共謀の上、吸煙目的で大麻草の栽培を行い、収穫した大麻草の一部を共謀の上自動車トランクに、一部を被告人が単独で自宅に所持していたという事犯であり、本件栽培、所持にかかる大麻草は大量なもので、被告人は大麻との親和性もみとめられることなどに照らすと、その刑責は決して軽いものとは言えないが、他方、本件トランク内に所持した大麻は、吸煙に適した枝の先端部分を取り除いた残りの部分で、被告人らはこれを投棄処分するためにトランク内に入れていたと認められること、本件犯行は被告人らの自己使用のみを目的としており、他人に譲渡するような目的を有していたとは認められないこと、被告人は公判廷において本件を反省し、二度と大麻の栽培及び使用を行わない旨誓約していること、被告人には交通違反による罰金刑以外に前科はなく、これまで会社員としてまじめに稼働しており、その勤務ぶりから本件以後も従来の勤務先で継続して雇用されることとなり、勤務先社長及び被告人の父親が今後は厳しく監督することを誓約していることなど、被告人に有利な事情もあるので、それらの情状を総合考慮し、主文のとおり量刑した上で、その刑の執行を猶予することとしたものである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官横田信之)